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2018.12.03日文研の話題 [Evening Seminarリポート]植民地下アジアにおける思索と審美の往還(2018年11月8日)

 11月8日のイブニングセミナーでは、稲賀繁美教授が、“A.K. Coomaraswamy and Japan: A Link between Colonial India and Annexed Korea”(A.K. クーマラスワーミと日本――植民地インドと、併合された朝鮮とのあいだで)と題し、英語で報告を行いました。

 スリランカ出身で英国育ちのインド美術史・文化史家アナンダK. クーマラスワーミ(1877-1947)と日本との知られざる交流の軌跡を、思想と工藝の観点から、岡倉天心(1863-1913)や柳宗悦(1889-1961)らの言説と対比させながら紹介しました。

 冒頭で稲賀教授は、The Book of Tea(1906年刊)の著者である岡倉天心によるアジア美術史構築の試みが、ボストン美術館で学芸員として働いていた当時のクーマラスワーミに大きな影響を与えたであろうと指摘し、東洋理想主義の萌芽について解説しました。そして、英国によるインド統治と日本による朝鮮併合が行われた1910年代を振り返り、民藝運動の創始者・柳宗悦とクーマラスワーミとの興味深い交差へと話題を導きます。

 朝鮮で起こった反植民地暴動の経験から、「他国民を最も深く理解するため」には「宗教と藝術」への親しい理解こそが必要と説き、民藝に「用」と「美」を見いだしていく柳。一方、英国統治下でインド工藝史研究を推進したクーマラスワーミ。両者に明確な交友の痕跡はないとしながらも、ウィリアム・モリスのアーツ&クラフツ運動からも感化を受けた二人が、それぞれの文化圏で独自に審美眼を磨き、思索を深めて行くプロセスについて、多様な文献を渉猟しながら語ってくれました。報告の終盤では、柳の友人であったインド人陶芸家グルチャラン・シン(1896-1995)が、朝鮮陶磁の文様を自作に取り入れ、植民地化のアジアを「ひとつ」に結びつける役割を果たしたという言葉が説得力をもって響きました。

 当日は、関東方面の研究者も駆けつけて会場が満席となる盛況ぶりで、講演後には、思想面、芸術面から活発な質問が相次ぎました。
 
 
(文・白石恵理 総合情報発信室 助教)